日々、多種多様な研究論文が発表され、新しい学術雑誌(ジャーナル)が発刊されている現在、研究論文をどの学術ジャーナルに投稿するかの選択は大変重要です。
論文の投稿先を検討する際、ジャーナルの影響力は気になるところです。ジャーナルインパクトファクター(Journal Impact Factor: JIF)またはインパクトファクター(Impact Factor: IF)と呼ばれる論文の被引用数から算出された指標は、学術ジャーナルの影響度を示すひとつの指標として採用されており、できるだけIFの高いジャーナルに投稿したいと思う研究者の方は多いでしょう。
IFに合わせて、分野別四分位(Quartile)指標(その分野の雑誌をIF順に並べた際の、相対的な位置)で高く評価されているジャーナル(Q1ジャーナル)を把握し、投稿先ジャーナルを戦略的に選ぶことで、論文出版の可能性がさらに広がります。今回は、ジャーナルのインパクトファクターとQ1、Q2など分野別四分位についての概説と、最近の動向を紹介します。
ジャーナルの影響度の目安:インパクトファクター
JIFまたはIFとは、ジャーナルに掲載されている論文が、どのぐらい引用されているかを示す指標です。クラリベイト社が毎年発表するJournal Citation Reports(JCR)には、被引用数を分析したIFの他、ジャーナルをさまざまな角度から評価するための指標が示されています。学術ジャーナルの個々の影響度合いが分かるので、研究者が論文を投稿するジャーナルを選ぶ際や、大学や研究機関が購読するジャーナルを選定する際の目安になります。
ただし、JIFはジャーナルの価値を評価するものではありません。ここでは、IFの計算方法は省略しますが、IFは研究分野や掲載するテーマなどによって変わってきますし、分野をまたいだジャーナルを比較することもできないので、あくまでも目安のひとつと考え、他の指標なども見つつ、総合的に評価するようにしてください。
また、クラリベイト社は、IFを付与するジャーナルをWeb of Scienceに収録されている自然科学・社会科学分野のジャーナルから拡大してはいますが(後述参照)、まだ含まれていないジャーナルもあることも覚えておきましょう。どの分野のジャーナルが対象になっているかを把握しておくことは大切です。IF以外の指標も活用し、多面的に情報を集めて検討することをお勧めします。
なお、IFは「Web of Science」と「Journal Citation Reports」それぞれから確認することができますが、IFの情報を見るにはJCRの有料会員でなければなりません。ほとんどの大学や研究機関は契約をしていると思いますので、検索を始める前に確認してください。
分野別四分位(Quartile)指標
特定の期間に、そのジャーナルに掲載された論文がどの程度引用されたかを示すIFは、対象年の直近2年分の論文の引用数から計算されますが、分野によって数値が異なるため絶対的な判定はできません。
そこで、該当のジャーナルが属する分野の中でどのような位置にあるのかを相対的に判断するための指標となるのが四分位(Quartile)指標です。
JCRでIFを検索すると、対象とする雑誌の情報の中に「Rank by Journal Impact Factor」として四分位も表示されます。四分位は、そのジャーナルが属する分野内でIF順に並べた場合の相対的な位置をQ1からQ4の4段階で示すもので、Q1 が上位25%以内、Q2が26~50%、Q3が51~75%、Q4がそれ以下となっています。
Qの数字が小さい方が高い評価となります。つまり、本記事のタイトルに掲示した疑問「Q1ジャーナルとは?」への答えは、「調査対象の学術雑誌の分野内でIFが高い順にジャーナルを並べたとき、上位25%にランクインする雑誌」ということになります。
ジャーナルの情報には年ごとのランクが表示されるので最新年のJIF Quartileを確認してください。複数の分野が表示されるジャーナルもあるので、その場合には最も高い評価を基準とします。
JCRでは、四分位から検索することもできるようになっています。JIF Quartileをクリックし、検索したい四分位区分にチェックすると、それぞれの区分のジャーナルが表示されます。分野を限定することも可能です。
Journal Citation Reports 2023年版での変更
クラリベイト社は、信頼性の高いジャーナルの情報を提供すべく、改善を続けています。昨年、Journal Citation Reports 2023年版(JCR2023)をリリースした際には、2023年1月1日以前に受理されたすべてのWeb of Science Core Collection™ジャーナルにJIFを付与。発展途上国を含む112か国の出版社から刊行されたものを含む21,500誌のジャーナルが収録され、データが大幅に拡大しました。さらにJCR2023では、IFの小数点以下の表示を3桁から1桁に変更しています。
この変更は四分位にも影響を及ぼすものでした。四分位とは、分野内のジャーナル数を四分割した数ではなく、分野内の順位によって算出されるものです。そのため、対象とするジャーナルが増えたことに加え、少数3桁の表示が1桁になったことにより同順位のジャーナルが増えることになります。四分位ランクによっては、例年のジャーナル数とは変わるものも出てきます(下図)。クラリベイト社は、IFが同位である場合の事例を検証した結果を公表していますが、ユーザーがジャーナルの比較を行う際には、IF以外の追加の指標や記述データを考慮するように促しているので、ユーザーとしてもより多面的にジャーナルを評価することが求められることになります。
出所:クラリベイト「Mapping the path to future changes in the Journal Citation Reports」
*この図のtodayとは2023年6月以前を示している。
Journal Citation Reports 2024年版
次に、最新のJCRに着目してみましょう。2024年6月20日にリリースされたJournal Citation Reports 2024年版(JCR2024)には、113か国、254の研究分野(カテゴリー)にわたる学術ジャーナル21,800誌以上が収録されています。オープンアクセス(OA)誌は5,800誌以上、今回新たにIFが付与されたジャーナルも544誌となりました。JCR2024では、引用牽引別のJIFランキングを廃止し、簡潔な統一カテゴリーランキング表示としたことと、特定の地域や分野で認知されている重要なジャーナルや新興分野で注目されているジャーナルなどを収録しているデータベースEmerging Sources Citation Index(ESCI)収録のジャーナルをランキングに追加するといった変更が加わりました。
JCR2024の変更は、前年ほど大きな影響がないとしても、対象タイトルが2,212誌増加したことや、OAが増加していることから、四分位指標にも少なからず影響は出るものと思われます。クラリベイト社はJCR2024の変更点をまとめたウェブページを公開しているので、そちらも参照してみてください。
最後にー複数の指標を理解し役立てよう
最後に繰り返しになりますが、IFや四分位はジャーナルの重要度や分野における位置づけを知るための指標のひとつです。ほとんどの研究者の皆さまは、Web of Science、Scopus、Google Scholar、PubMed、MathSciNet、Directory of Open Access Journalsといったさまざまな論文のインデックスを活用されていると思います。それぞれの収録ジャーナルの違いやジャーナルを評価するツールの違いを把握し、引用されにくい分野の論文ももらさず分析できるように指標を正しく理解した上で、複数の指標を参考にするなどして研究活動に役立ててください。
また、ジャーナルを出版する出版社の身元を確認することも大切でしょう。特に論文の投稿先ジャーナルを検討する際には、編集委員の構成は妥当か、公正な査読プロセスがあるか、投稿から出版までのスピードが異常に速すぎないか、など、同じ研究分野の研究者間で情報を交換し、インターネット上の情報だけに頼らない賢明な選択をする必要があるでしょう。
参考資料
Clarivate社、Journal Citation Reports(JCR)の2023年版をリリース Current Awareness Portal
学術雑誌の評価指標 新潟大学付属図書館
ジャーナル情報の調べ方 琉球大学付属図書館