論文を書き終えたばかりのときに、再読するのはあまりやりたくないことではないでしょうか。ところが論文の初稿を完成させることは、学術ジャーナル掲載への第一歩に過ぎません。論文を書き終えたら、次は修正と校正に進みましょう。「修正」と「校正」という言葉はよく同じ意味で用いられていますが、この2つの作業はまったく異なるものであり、優れた論文を作るためにはどちらも必要です。そこで、執筆の各ステップでどの作業を行うのかを見て、論文の原稿の修正と校正を効果的に行なうためのコツを学んでいきましょう。
論文の修正とは
論文の修正は、技巧よりも内容に焦点を当てるもので、論文の「身」、つまり実体(書かれていること)の確認を目的としています。流れはスムーズか?議論は分かりやすく書かれているか?論旨は明確に述べられているか?議論や結論を説明するデータが示されているか?自分で、あるいは修正作業を依頼した論文校正サービスが論文を修正する際には、ここに挙げたような質問すべて、さらに他の質問にも対応していくことが重要です。
論文の修正ポイント
- 論文の要点と内容を一致させる
- 議論の弱い部分や根拠のない主張を洗い出す
- 著者自身への質問と反論を提示する
- 論文の流れを論理的にするため、セクションの移動、段落の追加または削除といった構成変更を提案または実施する
- 論文の狙いを焦点化するため、論理的なギャップを埋め、不要な議論や脱線部分を削除する
論文もしくはあらゆる分野の論文を修正する際には、新しい目で見ていくことが必要です。著者である本人による修正が難しいのは、結局のところ自分で書いた文章を自分で確認するのでは「新しい目」での確認にならないからです。これが、論文原稿の修正も含めたサービスを提供する校正・編集サービスを利用することが有効な一手となる理由ですが、専門サービスへの依頼が選択肢としてない場合は、ほかの方法を用いて論文の修正を行うことができます。そのひとつは、論文の「逆アウトライン」を作ることです。逆アウトラインを作成するには、論文を読みながら仮説、主な論点、論拠(証拠)を書き出していきます。こうして論文を作成するときとは逆の手順で項目を抜き出し、それらを最初に作成したアウトラインと比較すると、補足が必要な点(ギャップ)やうまく流れていない箇所をスムーズに見つけることができます。
論文の作成において、はたして修正は必要なのか、論文の校正サービスは利用するに値するのか、と悩むかもしれません。ですが、最初から完璧に仕上げることなど滅多にできないように、修正や改稿を必要としなかった論文を書いた人はかつて誰ひとりとしていないことは確かです。修正を行うことで論文は洗練され、出版に最適な状態になるのです。
論文の校正とは
それでは論文の校正とはどのようなもので、上述の「修正」とどのように違うのでしょうか。論文の校正とは、一言で言えば、論文を読み進む際に気になる技巧的ミスがないかを確認する作業です。自分あるいは論文校正サービスがこの作業を行う場合、論文が読みやすいか、技巧的にもミスがないかを確認します。修正が論文に書かれている「内容」の確認を重視するのに対し、校正は「技巧」的な側面や体裁を重視した確認を行います。
論文の校正ポイント
- 句読点、大文字小文字の区別、スペル、文法、言語の使い分けを確認する
- 適切な語彙選択が行われているかを確認し、必要に応じて変更する
- 書式(フォーマット)、スタイル、引用における一貫性を確認する
- 科学式が適切に表記されているかの確認
- 文章を明瞭かつ簡潔に記述する(受動態を能動態に置き換える、長すぎる文章を分割する、など)
「修正」と同様、校正においても自分の論文を新鮮な目で見直すことが求められます。繰り返しになりますが、校正には相当な労力を要するので、この作業を論文校正サービスに依頼することは有益です。もし自分自身で論文の校正を行なう場合には、数時間、あるいは数日たってから論文を見直すのがひとつのコツです。時間をあけることで、新鮮な視点で論文を見直すことができるようになり、ミスを見つけたり修正したりすることが容易になります。
ここで重要なのは、校正は修正の後に行なうのが一般的だということです。この順番で行えば、文章の追加や移動させた箇所を二度手間、三度手間かけて校正する必要がなくなります。校正作業をどのタイミングで行うかにかかわらず、適切に校正された論文は、誤字脱字やミスの多い論文に比べてジャーナル掲載される可能性がはるかに高くなります。ですから、校正は絶対に省略しないでください。
執筆のヒント:Paramedic Method(Richard A. Lanham 教授が提案した英文作成の手法、救急医療=パラメディックのように必要性を理解した上で明確で簡潔な処置=文書作成を行うための7項目を提唱している)
論文の校正を含め、あらゆる専門的な文章の校正にも応用できる手法として、Richard Lanhamが開発したParamedic Methodというものがあります。この手法は、自分の書いた文章が簡潔になっているか、能動態で書かれているかを確認するのに優れています。特に、能動態で文章を書くのが苦手なノンネイティブ(英語を母国語としない人)にとって役立ちます。
Paramedic Methodには次の項目が挙げられています。
- 前置詞(of、by、for、between、in、onなど)を丸で囲む
- Be動詞を箱(ボックス)で囲む
- 行為(action)が何であるか考える
- 行為を簡単な動詞で表す
- 行為(doer)を主語にする
- 言いたいことをぼやかすような不要な部分を取り除く
- 同じような事を言っている冗長な部分を取り除く
例を見てみましょう。
Paramedic Methodは、論文の校正にも応用できます。別の例も挙げてみます。
It is widely known that the use of chemotherapy drugs has resulted in positive outcomes for the treatment of cancer in most patients.
(仮訳:化学療法薬の使用が、ほとんどの患者のがん治療に良好な結果をもたらすことは広く知られている。)
この文章にParamedic Methodを適用すると、より明確で短い文章にすることができます。
The use of chemotherapy drugs in treating cancer patients has resulted in positive outcomes for most patients.
(仮訳:がん患者の治療における化学療法薬の使用は、ほとんどの患者に良好な結果をもたらす。)
Paramedic Methodは、あらゆる種類の論文の校正に有用です。
では、どの時点で論文の修正と校正が終わったと言えるのでしょうか?ひとつの目安は、大幅な変更点を探すのを止めて、小さな、でも厄介な変更に移ったときです。投稿前の校正作業を論文校正サービスに依頼するにしても、自分で修正と校正を行って投稿するための原稿を作成するにしても、高品質で出版可能な論文を作成するには、修正と校正の両方のプロセスが不可欠であることを覚えておきましょう。