卒業論文/学位論文を書くことは大仕事なので、気持ちが負けそうになることもあるでしょう。卒業論文、学位論文はどちらも大学または大学院での研究の集大成として書かれるものです。
卒業論文/学位論文を意味するdissertationとthesisの違いは、自分がどの学術課程にいるかによりますが、英語と米語でも異なります。 欧州では、dissertationは修士課程で書く論文で、thesisは博士課程で書く論文とされていますが、米国ではthesisが博士課程の学生が修士号を取得するために書く論文であり、dissertationが博士課程で書く論文です。
一般的にこれら2つの研究論文の目的は同じで、学生が所属する学術課程において独自の体系的かつ長期的な研究を実行する能力があることを実証することです。論文を執筆することは、計画を立てて管理する経験であり、興味のある特定の題材について専門知識を発展させる機会です。自分自身の個人的な学術興味を追求するための時間と材料を与えられていると考えれば、何とも贅沢なことではないでしょうか。
卒業論文/学位論文を書くことは、学部生のときに書いていたような短い論文を書くよりも大変な作業です。ここで言う論文の構成は、それまでに見知ったものとは異なっているかもしれません。しかも、従事している研究分野、さらに研究の種類によってもその構成が異なってくることもあり得ます。ここでは、人文科学あるいは社会科学分野における卒業論文/学位論文をどのように組み立てるかに注目し、長大な論文を書くために役立つ情報を提供します。論文をどのように組み立てるべきかをしっかりと理解しておけば、論文を書き始めることができるでしょう。
人文科学・社会科学分野の論文の構成とは
卒業論文/学位論文の構成は、題目、学術分野、研究方法(調査方法)、研究を行う場所に大きく依存します。社会科学および人文科学の分野における論文は、自然科学分野の研究とは方法と調達において違いがあるため、論文の構成が異なるのが一般的です。とはいえ、社会科学の論文でも、特に定量的研究手法を頻繁に用いている場合には、自然科学の論文と同じ形式で論文を書けるものもあります。そうした論文はIMRAD(Introduction, Methods, Results And Discussion)形式に準じて書かれるのが一般的です。:
- 序論
- 方法
- 結果
- 考察
社会科学の論文の多くは、80から120ページの長さで書かれています。
一方で人文科学の論文は、この分野の論文が先行研究の文献や症例研究/ケーススタディの議論に頼るところが大きいため、長い文章になることが多々あります。例として文献と症例研究を引用し、命題の周りに議論を構築していくのです。そのため、100から300ページの長さとなる傾向があります。
学位論文の構成:どこから書き始めるか
社会科学あるいは人文科学の論文の題目と構成を準備する際は、読者を念頭においておくことを忘れないようにします。常に誰のために書いているのかを考えてください。その分野の専門家に向けて書いたものだとしても、その題目に馴染みの薄い人が読んでも分かるように十分詳しく書くようにすべきです。読者が自分の書いた内容について知識があるとは思わないことです。すべての過程の段階について明確かつ簡潔に説明するとして、それを念頭に論文を組み立てていきます。
社会科学と人文科学で異なる部分はあるものの、基本的な論文の構成要素には共通する部分もあります。どちらの論文も以下の項目から始めるのが一般的です。:
タイトルページ
タイトルページとはどのようなものか。
上手なタイトルとは、人の心をつかみ、論文の内容を簡潔に伝えるものです。タイトルページには、名前と所属(学部名など)、指導者の情報、ID番号などを書きます。大学や研究機関によって記述すべき情報が異なるので注意します。
謝辞
論文執筆に当たって、多くの人の助けを借りたことでしょう。ここでは、そうした人たちへの謝意を示します。
要旨(要約)
要旨とは、論文の内容を1ページ程度(300ワードかそれより少ない語数)にまとめるものです。最初に研究課題を書いてから、研究背景を簡単に述べ、その後に研究の内容を説明し、成果(分かったこと)を書きます。多くの読者は要旨を読んで論文全体を読むかどうか判断するので、要旨は説得力のある、要点に絞った文章としておくべきです。
目次
目次には、章や節のタイトル(見出し)とページ番号を記載します。読み手が論文に書かれている項目を簡単に把握できるようにするのを助けるものであるべきです。
これらの項目は、人文科学あるいは社会科学の卒業論文/学位論文のいずれにおいても冒頭に置かれるものですが、ほとんどの人は最後に執筆します。これらを早い段階で書こうとすると、特に目次は全体を書き直したり、校正やプルーフリーディングを行ったりする度に書き直しが必要となり、何度も余計な手間がかかることになるので注意しましょう。
人文科学分野の論文の構成
上述したように、人文科学および一部の社会科学の論文は随筆のような文章構成になります。一般的な人文科学分野の論文の構成としては以下のような章立てが挙げられます。
- 序論
- 背景
- テーマ1(題目1)
- テーマ2(題目2)
- テーマ3(題目3)
- 結論
- 参考文献(文献目録 )
上のテーマの数は単なる例です。
人文科学の論文では、序論と背景を分けずにひとつの章として書かれることもよくあります。序論と背景で、テーマ全体を紹介し、テーマに対してどのように取り組むかを読者に示します。その上で何故そのテーマに興味を持ったのかを説明し、該当分野における主な論点を取り上げ、背景情報を提供します。続いて自分が何を調査したのか、なぜその調査を行ったのかを説明します。テーマについて書いた章に進む前に、仮説を具体的に示しておく必要があります。
テーマについての章は(論文ガイドラインが許す限り幾つでも書くことは可能です)以下のような構成とするのが一般的です。:
- 序論:その章で書くテーマについて簡潔に紹介し、どのような話をするかを読者に知らせる。
- 議論:その章で議論することを提示する
- 材料・素材:そこで使用する材料・素材を論じる
- 分析:使用した材料・素材についての分析を示す
- 結論:それが自分の主な議論とどのように関連し、次のテーマにつながるのかを示す
最後に、全てをまとめ、議論したことを分かりやすく要約したものを結論に書き表します。この後に、参考文献または文献目録を付け、論文で引用したすべての情報源をリストにして示します。
社会科学分野の論文の構成
人文科学の論文が随筆調の構成になるのとは対照的に、典型的な社会科学の論文は次のような章で構成されます。:
- 序論
- 文献レビュー
- 方法
- 結果
- 考察
- 結論
- 参考文献(文献目録)
- 付録(別添)
人文科学の論文とは異なり、社会科学の論文における序論と文献レビューは明確に分けて書かれます。序論では、何について語るかを読者に伝え、より広い文脈の中で研究題目の重要性を示します。読者が序論を読めば、何を研究しているか、どのように行っているのか、何故その研究をやっているのかがしっかりと把握できるように書いておく必要があります。
文献レビューでは、既存の研究を分析し、既存研究における自分の研究に議論を集中させます。読者が、調査しているテーマについて他の研究者が言っていることを明確に理解できるように情報を提供しつつ、自分が研究を行うテーマが議論を引き起こす可能性や、それまでにどの程度の研究が行われたのかを明確にしておく必要があります。最後に、この論文が既存の研究の中でどのような位置に置かれるのか、文献全体に対してどのような貢献となるのかを説明します。
社会科学の論文の方法では、どのように調査・研究を行ったかを分かりやすく説明します。定性的あるいは定量的、どちらの手法を使ったか。プロセスをどのように構築したか。なぜその手法で行ったのか。方法論的アプローチの限界(弱み)は何か。などについて書き記します。
方法について説明したら、次は結果を書き記します。結果には研究を行ったことで何が分かったのかを記します。結果に続いて、結果の重要性を示し、期待していた成果が得られたか、得られなかったかについて論じる考察を記します。期待していた成果が得られた理由は?逆に成果が得られなかったならその理由は?最後には、何を研究したのか、何故それが重要なのかを繰り返し伝えるべく結果をまとめ、研究において将来的に重要なポイントを指摘します。文献目録には、論文中に引用した全ての文献を一覧にし、付録には追加的な情報や生データやアンケートの質問など、読者が見たいと思うであろう情報を書き出します。
社会科学の卒業論文/学位論文は、定量手法よりも定性手法に大きく依存するものですが、それでも上述の構成に準じて書くことができます。とはいえ、結果や考察の章がつながってしまうことや、ひとつになってしまうこともあるでしょう。社会政策、歴史、あるいは人類学などの特定の社会科学論文は、先述の人文科学の卒業論文/学位論文の構成に準じて書かれることもあります。
人文科学・社会科学分野の論文執筆および構成のための留意点
構成の概要を示してきましたが、まだ書き始められないという場合は、人文科学または社会科学の卒業論文/学位論文の書き方および構成について示した以下の段階的チェックリストを参考にしてみてください。
- 卒業論文/学位論文のテーマを選択する。
- 卒業論文/学位論文の構成に関する所属機関の要件を確認する。
- 字数またはページ数に関する規定
- 書かなければならない章の項目
- どの章が任意となっているか
- 予備調査を実施する。
- 研究手法を確定する。
- 提案した研究手法と期待される結果についての概要を記す。
- 提案した手法を使い、どの章(項目)を論文に書き込むかを判断する。
- 論文構成の輪郭をつかむために暫定的な目次を作成する。
これらの手順を踏まえることで、人文科学あるいは社会科学論文原稿を書き始める前に、構成が組み立てられるはずです。
執筆および構成のために抑えておくべきポイント
論文執筆は困難を伴う作業ですが、とてもやりがいのある作業でもあります。執筆段階について注意深く学ぶことできちんと準備しておけば、経験を最大限に生かすことができるでしょう。論文の構成をどのようにするかを決める前に、テーマを確定させ、仮説を立てておく必要があります。また、時間のあるときに準備的な資料や文献の読み込み、ノート作成を行っておくことも必要です。
卒業論文/学位論文を書くことは多くの人にとって初めての経験なので、優れた論文を書き、引用文献を整理するのに役立つさまざまな既存のツール類についての知識を取得する時間を取っておきましょう。引用・参考文献自動作成機(citation generator)やEndNoteのような文献管理ツールは情報の記録を残すのに役立ち、AI機能搭載の文法・文章チェックツールは執筆作業の助けとなります。また、論文の大方が書けたところで校正やプルーフリーディングを行う必要があることも覚えておきましょう。