科学分野の卒業論文/学位論文の組み立て方

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卒業論文/学位論文とは、学術課程の集大成として書かれる、長文かつ高度な内容の研究論文です。ほとんどの大学は、学部および大学院の学生の卒業要件として、卒業論文/学位論文にまとめることで独自研究を行う能力を実証するよう求めています。

とはいえ、すべての卒業論文/学位論文が同じ構成で書かれる訳ではありません。ここでは、科学分野における卒業論文/学位論文の構成に重点をおき、どのセクションに何を書くべきかを見ていきます。論文を書き出す前に、科学分野における卒業論文/学位論文(以下、科学論文とする)をどのように組み立てるか、それぞれの項目に何を書き込まなければならないかを理解しておくことが重要です。

科学論文の構成とは

科学論文のための共通の書式は存在しません。それぞれの大学や研究機関が独自のルール(規定)を設けていますが、こうしたルールは学部/部門や指導者によってさらに異なっている場合もあります。そのため、卒業論文/学位論文の素稿を書き始めるときには、最初に自分が所属する大学や研究機関のルールや要件を確認しておきます。

大学によって、最小語数(ワード数)を定めているところもあれば、最大語数を定めているところもあります。記述するべき語数は、プログラムやコースによって異なる場合もあります。修士論文であれば1万5千から4万5千語(ワード)ぐらいの範囲で書くことが求められるのに対し、博士論文であれば8万語に及ぶこともあります。

所属する大学や研究機関には独自の要件やガイドラインがあると思いますが、ここでは科学分野における典型的な卒業論文/学位論文の組み立て方につき、分かりやすくするために以下の2つに分けて一般的な概要を説明します。:

  1. 論文本体(本文)
  2. 補足情報

卒業論文/学位論文の本体の構成としては以下です。:

  • タイトルページ
  • 謝辞
  • 要旨(要約)
  • 目次
  • 序論/文献レビュー
  • 材料と方法
  • 結果
  • 考察/結論
  • 図表
  • 略語一覧
  • 用語集

論文の最後に以下を含めた補足情報を記します。:

  • 参考文献一覧
  • 付録(別添)

ここに挙げたセクション全てが含まれないこともありますが、それぞれのセクションに何を書くか詳細を見ていきます。

科学論文の構成:どこから書き始めるか

論文本体のタイトルページから用語集までの各セクションを順番に見ていきます。ここでは構成順に示していますが、論文全体を書いてからの方がまとめやすいセクションもあるので、どのセクションから執筆するのでも構いません。構成順にこだわらず、書きやすいセクションから始めてください。

タイトルページ

論文には内容を総括する明快なタイトルが必要です。タイトルページには、タイトルの他に著者名、課程、学部、指導者名、提出日などを記載します。大学や研究機関でタイトルページに何を記入すべきか書式を定めていることもあるので、関連するガイドラインをしっかり確認しておくようにします。

謝辞

このセクションでは、論文作成を支援してくれた人への感謝を示します。このセクションで指導者や編集者、時には両親への感謝を示す人も少なくありません。また、研究を実施するための金銭的あるいは技術的支援を受けていた場合は、このセクションに書いておきます。

要旨(要約)

要旨とは、論文を簡潔に(概ね300ワード程度で)まとめたものです。要旨は、伝えたいことを抽出したものと考えるとよいでしょう。研究領域と目的、方法、発見したことを要約して示します。

目次

目次は、論文の各セクションの一覧です、各セクションの見だしと小見出しをページ番号とともに示します。

図表

 これは、論文に入れ込んだ図表の一覧と考えてください。それぞれの図表のタイトルとページ番号を書き出します。

略語一覧

論文中に使った特殊な略語を識別することを目的としたリストです。ここには、組織名称の略語(WHOやCDCなど)や頭字語(PFCなど)などを書き出しておきます。科学論文では、測定単位、化学元素の標準記法、化学式、化学薬品・製品の略称なども記載しておくことが望ましいとされています。

用語集

このセクションでは、ターゲット読者に馴染みの薄い用語を定義しておきます。

科学論文の構成:主セクションと参考文献

序論/文献レビュー

用語集の後には、科学論文の序論を続けます。科学論文の序論には、文献レビューが含まれることもよくあります。ほとんどの社会科学または人文科学分野の論文では、文献レビューが別途章立てられるのが一般的であることとは異なります。序論は、研究の背景および前後関係を明確に記すところから書き始め、研究課題、目的、仮説および主題を続けます。以下に例文を挙げておきます。: 

“「ニコチン摂取がインスリン抵抗性をもたらすことは長い間認められてきたが、禁煙後にインスリン抵抗性がどの程度の期間、維持されるのかについて実質的な研究は行われてこなかった。この研究は、ニコチン摂取を完全に止めた健康な被験者のインスリン抵抗性の数値を測定することを目的としたものである。我々はインスリン抵抗性が6ヶ月以内に急速に低下し始めるとの仮説を立てている。」”

 序論の後には、論文の題材について書かれた先行研究論文のレビューを記します。このセクションでは、その文献が自分の研究とどのように関連しているのか、自分の研究がギャップをどう埋めるか、または先行研究をどのように強化するかを明確に特定する必要があります。自分の研究を先行研究の課題と照らし合わせることで、研究の重要性を示します。

材料と方法

方法には、自分の研究で何をどのように行ったかを説明する必要があります。研究に何らかの材料(バクテリアなど)を使用した場合には、すべて明確に記載します。生物を扱った場合は、所定の分類名も含めて一覧にする必要があります。他の研究者が、論文にした研究で行ったことを正確に再現できるように、使用した技術、材料、方法を説明しなければなりません。

結果

結果には、起こったことを記します。何を発見したのか―データに重点を置き、分析に光りを当てる必要があります。通常、研究結果の詳細な分析と解釈は考察セクションに示します。研究結果は完全に提示するべきですが、補足データを示す場所がない場合には付録(別添)に入れ込むこともできます。結果は、過去形で書かれることが一般的なのも覚えておいてください。他のセクションが、目前の題目に応じて過去形または現在形の混在で示されるのに対し、結果のセクションは、研究(実験)ですでに起きたことに焦点を当てて書かれるため、過去形で記載することになります。

考察/結論

考察/結論では、発見したことが何を意味するかを議論します。結果は仮説と一致しましたか?一致したのであれば、どのように一致しましたか?一致しなかったのであれば、どこが異なっていましたか?例外やミス、または相関関係の完全な欠如があった場合には、隠すことなくすべて記します。結果が何を意味するのかを明確に論じるか、わからない場合には恐れずにそう表明します。このセクションでは、研究の実用的な応用の可能性や、研究の限界、将来研究への方向性を際立たせ、今一度、研究分野における自分の研究の重要性を強調することができます。このセクションには、結果が仮説を裏付けるかどうか、全体的なまとめを記すのが一般的です。以下に例文を示します。:

“「我々の研究では、600人の被験者のうち500人が、ニコチン摂取を止めてから3年以上たっても高レベルのインスリン抵抗性を示していたことが判明した。この結果は、被験者がニコチン摂取を止めてから約6ヶ月でインスリン抵抗性が下がり始めるとの仮説に反するものだった。過去のニコチン摂取が元喫煙者のインスリン抵抗性レベルを変化させるメカニズムについては、さらなる研究が必要である。」”

参考文献一覧

参考文献一覧とは、研究作業と論文執筆に使用した情報をアルファベット順または番号順に並べたものです。この一覧は大学や研究機関の書式・ガイドラインに準じて記載します。引用や参考文献のリスト作成に有用なcitation generator などの便利なツールは、参考文献を正確な形式で整えるのに役立ちますし、EndNote やMendeley などの文献管理ソフトは参考文献一覧を作成する助けとなります。また、それぞれの参考文献が正しい形式で記述されているかの確認を行う専門の編集者やプルーフリーディングサービスもあるので活用してみるのも一案です。

付録(別添)

このセクションは、論文の題目に関連はしていても本文に書き込むことができなかった資料などを残しておきたい時に活用できます。表や、大量のテキスト、イラスト、データを収集したり研究調査を進めたりするのに使用したフォーム、およびその他のさまざまな資料を付録として付けておくことができます。

執筆および構成のための留意点

卒業論文/学位論文を書くのは、困難で時間のかかる作業です。科学論文を作成する際に頭に入れておくと役立つ構成のための留意点を書き出しておきます。:

  1. 専門的に興味を持っていることを論文の題目に選びましょう。その題目について考え、読み書きするために多くの時間を費やすことになるので、興味深い題材を選ぶのが得策です。 たくさんの意欲的な若手研究者が、論文に関連する分野で仕事に就いています。研究開始後、あるいは提案書の作成を始めてからその題目に興味が持てないとなった場合には、恐れずに方向転換してください。
  2. 論文作成スケジュールを慎重に作ります。与えられた時間と素材(材料)の制約を踏まえてもその題目は現実的ですか?研究のために外部の研究資金への申請を行う必要がありますか?それには追加的な時間が必要ですか?スケジュールを書き出しておき、論文の執筆プロセスを通して何度か再検討し、改訂していくようにします。
  3. 論文を書き始めるのを後回しにしない。卒業論文/学位論文は、時間をかけて研究を行ってから執筆する学部論文とは異なり、研究を続けながら書いていく必要があります。ラボで実験をしながら書き進めていくのです。物事を学びながら書き、修正していきます。実際の研究を終えるときまでに実質的な原案ができているのが理想です。
  4. 最初に方法から書き出します。このセクションは、単刀直入で、研究の準備を行う時点で既にかなりの作業を進めているため、多くの人にとって論文の構成の中では最も書きやすいセクションです。とはいえ、論文を書く順序はそれほど気にする必要がありません。あちこちのセクションからバラバラに書き出したとしても問題ありません。
  5. 文献管理や類似のソフト、アプリを使って参考文献の詳細リストにタグを付けて保存しておけば、情報源を特定するのが楽になります。

執筆および構成のために抑えておくべきポイント

卒業論文/学位論文を書くことは、やりがいのある作業です。執筆作業を成功させるためのプロセスで抑えておくべきポイントは、校正とプルーフリーディングを行う十分な時間を残しておくことです。最終稿が仕上がるまでに幾つもの素案を作り、何度も書き直しをすることになります。

プロの校正サービスを利用することは、研究内容に相応する専門的かつ高品質な文章を作成するのに大きな助けとなるでしょう。学生や若手研究者向けの人工知能(AI)を活用した文法チェッカーのような役立つオンラインツールも多数あるので、こうしたツールを利用することもお勧めします。

また、優れた論文を書くためのヒントを掲載したサイトをチェックし、良質な校正サービスや、さまざまな論文校正やプルーフリーディングサービスの情報を探したりしてみてください。

よくあるご質問

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