序論は読者にとっては第一印象を決めるものです。執筆者としては、できるだけ良い印象を持ってもらいたいと思うでしょう。論文における最初の章である序論は、目次の後、文献レビューの前に挿入され、読者に向けて何について書こうとしているか、その理由と次に何が書かれているかを伝えるための発端となるものです。では、人の心をつかむことができる序論はどのように書けばよいのでしょうか。
Table of contents
論文の序論の構成および要素
人の心をつかむ序論を書くには、最初にこの章に入れるべき要素と、その構成について理解しておく必要があります。以下が一般的に序論に書くべき事項です。:
- 主題文
- 研究に関わる状況(簡単な背景)説明
- 論文の焦点と領域
- 研究の妥当性と重要性の説明
- 研究目的とそれを達成するためにどのような手法を用いたかの説明
論文の他の部分の構成に関するガイド(ロードマップ)
論文の序論の一般的な長さは、論文全体の長さの1割程度とされています。序論に図を入れ込んだ場合には、もっと長くなるかもしれません。明快で人の心をつかむ序論を書くには、上に挙げたポイントを全て網羅しておく必要があります。読者に研究テーマを紹介するにあたって必要だと思えば、他の要素を入れ込むことも可能です。
序論:書き始め
どのように序論を書き出せば良いのか、いつ書き始めるべきなのかを見てみましょう。
論文の構成上、最初の章となる序論ですが、最初に書き始めなければならないというものではありません。論文を書き始めることは困難で、打ちのめされた気分になることもあり、「文章が書けないスランプ(真っ白い紙を前にして何から始めれば分からずに停滞するというのでBlank page syndromeと呼ばれます)」に苦しむ人も多いのです。そのため、論文を書き始める時点では、序論用のプレースホルダ(placeholder:後から挿入するために、とりあえず確保しておく仮の場所)を入れておくことを推奨する人もいます。もちろん、論文の草稿を作成する過程の最初、半ば、後半のいずれの時点で序論を書くかは自由です。執筆者によりますが、序論以外の論文のかなりの部分を書き上げてから序論に取りかかった方が、先に書いた部分を見ながら全ての重要な要素を網羅しているかを確認できるので、全体を書き上げてから序論を書く方が良いと考える人もいます。
序論から書き出そうとするのであれば、論文提案書に書いたことがドラフトの作成に役立つでしょう。ただし、論文の他の部分を書き上げた後に、読者に対して正確なロードマップや論文の要約が提示されているかを確認するために、改めて序論を見直す必要があることは覚えておいてください。
テーマと背景
序論は、読者に向けて、論文のテーマは何か知らせるとともに、関連する背景についての情報を提供する文章となっているべきです。実際にここで提供する背景情報の量は、卒業論文/学位論文のタイプによって異なります。
自然科学もしくはある種の社会科学の論文を書いているのであれば、序論に続いて背景を別の章として記述します。背景として多くの情報を書く必要はありません。研究の大まかな状況を述べれば良いのです。ただし、背景を序論とは分けない構成としている場合には、序論の文章量がやや多くなっても構いません。
研究テーマを紹介するときには、読者を引き込みたいと思うことでしょう。その研究がいかに興味深く、重要なものであるかを伝えれば、もっと読んでみたいと思うはずです。驚くような事実や面白いエピソードも書くようにしましょう。扇情的になる必要はありませんが、面白みのない、退屈な文章にならないようにします。研究テーマに関連する事実や話を提供することで、読者をつなぎ止めるようにしてみてください。
例(テーマ)
米国における金融規制制度の弱点
例(文章):
いくつかの銀行が巨額のマネーロンダリング(洗浄行為)を見逃していることに関するニュースにスポットを当てる。マネーロンダリングによってギャングに資金が提供され、アメリカの主要都市の街角で簡単に手に入る麻薬がはびこるのを増長している。近隣で麻薬の影響を受けた特定の個人の話を書き、そこから大手銀行を介したマネーロンダリングが可能なギャングにとっての麻薬の存在につなげることができるだろう。
論文の焦点と領域
読者に向けて幅広いテーマを紹介し、背景を伝えることができたら、論文の中の特別に焦点を当てていることや領域(範囲)についても説明したいと思うでしょう。具体的には、研究テーマのどの特徴について研究を行うのか?研究で取り上げないことは何か、その理由は?書き方は任意ですが、研究で取り上げないこと、つまり対象から外すものをはっきりとさせることが、研究の目的について具体化するのに役立つこともあります。
例:
連邦準備制度における「規制の虜」および、それが反マネーロンダリング規制の取り締まりを緩めることにどのように関与しているか。
連邦準備銀行はマネーロンダリングを容認していた金融機関を監視する主要な規制機関のひとつであることから、連邦準備制度の「規制の虜」に重点を置いた研究であると説明することで、これについて書くことができます。さらに、銀行が反マネーロンダリング規制を順守しているかの監視において連邦準備制度が担う役割について特に重点的に取り上げることも可能です。ただし、ローンや合併といった他の分野のコンプライアンスに関する監視における連邦準備制度の役割については書きません。序論を読むことによって、読者にこの(序論の)後に続く内容の予備知識を提供し、次に何が書かれているか期待を抱かせるのです。
研究の妥当性と重要性の説明
この項目は、序論の中で最も重要なことのひとつです。なぜ自分の研究が重要なのか、さらに言外の含みとしては、なぜ読み続けるべきなのかを伝える必要があります。十分に革新的または画期的な研究でなければ価値がないということではありません。自分が行った研究が価値あるものであると説明するにあたって、執筆している論文の重要性を誇張する必要もありません。
例:
不正行為(汚職)は、民主主義的規範および良い統治(ガバナンス)を維持、促進するにあたって、ますます重要な課題となっている。マネーロンダリングに目をつぶる組織に対して効果的な罰則を科すことのできる力がなければ、規制を無視する悪人の力が増すにつれ、米国のような民主主義政府は脅威にさらされることになるだろう。ドルが世界の準備通貨のひとつであることから、自国の金融機関に依存する腐敗した経営者らの世界的なネットワークを断ち切るために、米国は自国で反マネーロンダリング規制を施行させなければならない。連邦準備制度における規制の虜の存在を明らかにすることは、議員(立法者)と規制当局に対する警笛であり、政策立案者に対する有力な介入が必要であることを示唆するものである。
上の例は、「この研究は、私たちが知っているとおり、米国における金融改革をもたらします」または「この研究は腐敗した金融の流れを終わらせるためのロードマップを提供します」といったあまりにも広い定義で供述せずに、問題が幅広い範囲に影響を及ぼすことをはっきり説明しています。何がその問題を重要にしたのか、面白くしているのかに焦点を絞り、先に提供した幅広い文脈の中でその点を明確に述べるようにします。
読者向けのロードマップ(予定表)
序論の最後では、読者に論文の他の部分のロードマップ(予定表)を示します。これは目次とは違い、論文がどのように構成され、なぜそのような構成になっているのか、より踏み込んで詳しく書くものです。序論のこの項目の構成としては、「最初に、次に、最後に」といった形で、はっきり分かりやすく示します。
例:
本研究では最初に規制の虜および、それが執行活動にどのような影響を及ぼしているのかについて、金融機関と、連邦準備制度の歴史に重点を置きながら既存の文献のレビューを行う。次に、この研究に使用した資料と、どのように分析を行ったか論じる。最後に、データ分析の結果を説明し、結果の意味および今後の政策決定への示唆を追究する。
ここまでくれば、読者は論文を読むことで何が得られるか、そしてその期待が執筆者の全体的な狙いや目的にどう合致するかを正しく分かっているはずです。読者は、研究テーマ、背景、その関連性、さらに研究において執筆者が特に重点を置いていることについての知識を得ていることでしょう。
論文の序論を書く時にやりがちな問題のひとつは、多くを書きすぎることです。多くの学生や若手研究者は、十分に書き切れていないと不安を感じ、どうにかして半分に減らさなければならないほど長大な序論を書きがちです。論文の序論は詳細に書く必要はありません。論文の中身は、序論の後の章に書かれていることを忘れないでください。序論を書きすぎてどうやって減らそうか(もしくは増やそうか)悩んでいるのであれば、新鮮な目線で論文を読み、すぐに書き直してくれるプロの校正者の助けを借りることも一案です。序論は、読者が論文を読む際に最初に目に入る部分ですので、ここで示したポイントを抑えて素晴らしいものにしてください。当社のウェブサイトには、良い論文を書くための手法や参考情報、論文校正サービスに関する詳細を紹介していますので、是非ご参考ください。