各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。筑波技術大学 保健科学部の三浦美佐先生にお話を伺いました。後編では英語学習のポイントを、ご経験に基づいてお話しいただきました。
※本ページのコンテンツは、研究支援エナゴの「わが研究室の英語学習法」から転載しています。コンテンツに記載のある所属先や役職名はインタビュー実施当時(2017年)のものです。
■ 先生の研究仲間や研究室の大学院生も、論文発表において同じように苦労されていますか?実際に英語の指導をされる上で心がけていることを教えてください。
英語での応答に苦労している人は多いと思います。大学で英語力を伸ばす機会というのはなかなか限られています。プレゼンや質疑応答の練習まで、本当は一から細かく教えられればよいのですが、まずは自分の研究内容をどう伝えるか、という実用的なところに重点を置く必要があると思っています。発音や文法ももちろん大事ですが、それ以前に自身の研究内容を的確に伝えられるようになることが重要です。実用的かつ学会で役に立つという観点で、学術論文が書けるまでになる、ということを意識しています。
最終的には一人で英語の研究論文を書くことが目標です。この研究室の学生は、今年の4月に入ってきたばかりなので、まずは英語で自分の所属を書くところから慣れさせます。量を徐々に増やし、それを私がチェックします。学会で自分の研究を自分で伝えられるようになることを願って指導しています。
質疑応答で答えに詰まるようであれば、「後でメールなどの文書で回答します」ということを徹底させたいなと思っています。自分の研究内容を書く訓練になりますし、世界の研究者とつながるせっかくの機会ですからね。
■ 機械を使ったリハビリの効果の研究や、機械・機器の開発などもされているのですか?
従来の運動療法の実施が困難な寝たきりの方でも使用できる自転車運動とか、電気刺激、さらに廃用症候群の予防のための運動プログラムなどが研究対象です。例えば、腎臓病の方に効率よく運動していただくため、下肢陽圧式空圧免苛歩行装置を企業と開発し、臨床試験を行っているところです。他には、透析患者さんが透析を受けている間にベッドの上でこげる自転車を考案し、企業と一緒に臨床治験を行っています。
■ 大学によって英語を学ぶ機会には差があり、学術英語を学ぶとなるとさらに機会が少ないかと思います。おすすめの学習法がありましたら教えてください。
東京大学が運営するUTokyo English Academiaがおすすめです。学術英語の勉強が無料でできるウェブサイトで、自分でも利用してみたのですが、手始めにはすごく適した内容だと思います。大学院生のためのプレゼンのコツや、学会で必要な会話などを紹介してくれていて、かつ無料で使えるので非常に役立ちます。
■ 日本の研究者が英語力を鍛えていくために必要だと思われることを教えてください。
日本人は読むことと書くことにかけては、英語ネイティブと比べても遜色ないと思っています。あとは話すことと聞くことですが、私の失敗経験から言えば、聞くこと(リスニング)を最初に鍛えていくのがよいのではないかと思います。私が一番困るのは、研究のことは伝えられても日常会話や冗談がわからないということです。周りが笑っているけれど、何がおかしいのかがわからない……。研究に関わることは話せたり、聞き取れたりするので、同じように日常会話や冗談も理解できて、自分もそれに対して言い返すことができたら、どんなによいかなって思います。
■ 学会のパーティーでの交流は、ネットワークの構築に欠かせませんからね。
日本人は社交の場で輪に入っていくのが苦手なのか、日本人同士で固まってしまうか、壁際で一人でワインを飲んでるという光景をよく目にします。英語を話せる人は、お酒が入るとどうしても早口になるので、会話に入っていくのが余計に難しいというところがあるのかもしれません。
■ 社交性を鍛える方法があれば教えてください。
英語を話す留学生を捕まえて、多少ブロークンでもいいから英語で話すことが最も手っ取り早いです。お金もかかりませんし(笑)。そして日本語を話さないことです。
私の周りにも留学生がいましたが、中国からの方が多かったですね。ショートメッセージなどで英語のやり取りをし、表現の仕方を勉強させてもらいました。自分では思いつかないような言い方や、日本人とは異なる考え方は非常に勉強になりました。
■ 筑波技術大学の英語教育はいかがですか。
この大学も英語に力を入れており、無料の英会話サロンも開催しています。週1回、ネイティブスピーカーが終日部屋におり、学生が自由に出入りできるようになっています。でも、学生は勇気がないのか、なかなか入れないみたいです。
本学は視覚・聴覚に障害を持つ学生を対象にしているのですが、視覚障害と言っても、暗い所では見えないとか、光の刺激があるとまぶしくて視野が狭くなるとか、一人ひとりがさまざまな苦労を抱えています。そのため、学生は前に出るということをためらいがちです。会話の場を提供するだけでなく、参加するための策を考えないといけないと思っています。
■ 最後に、若手の研究者、大学院生、学生へのアドバイスをお願いします。
英語のニュースを聞くのが一番じゃないでしょうか。BBCニュースをはじめ、発音のきれいなニュースを聞いてみる。インターネットでも聞けますし、速度調整も可能なので、少し遅いスピードで聞いて耳を慣れさせていくのは、リスニングの強化につながります。私もiPadにBBCを入れており、時々聞いています。
参考にする本としては、日本語で簡単に書かれた英語論文の書き方のノウハウ本や、ネイティブが書いた英語のコツなどがありますが、初歩の初歩なら漫画も一案です。英語がわからなくても絵を通して感覚的に理解することができるので。
テレビや漫画など何でも活用して基礎を固め、英語を好きになる、苦手意識をなくすということが大事です。英語への抵抗が薄れれば、学術論文に進むのもスムーズになるかなと思っています。
写真:三浦美佐先生と研究室の大学院生、西田叡人(あきひと)さん。