各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。聖徳大学 心理・福祉学部教授の北川慶子先生にお話を伺いました。インタビュー後編では、英語指導法や上達法についてお話しくださいました。
※本ページのコンテンツは、研究支援エナゴの「わが研究室の英語学習法」から転載しています。コンテンツに記載のある所属先や役職名はインタビュー実施当時(2018年)のものです。
■ 佐賀大学にご在職中、学生の皆さんを海外に連れて行かれたそうですね。
佐賀大学が約10年前に環黄海地域の国々、つまり韓国と中国と日本で「環黄海教育プログラム」というものを作りました。言語専門の教員に対してプログラムへの参加を募ったのですが、手を挙げる人がいなかったので、私が立候補しました。
内容としては、環黄海の3カ国以上の国から教員を集めて行う授業に、各国の大学院生を参加させるという教育プログラムでした。選出された教員が、各大学院で持っている授業を一週間、オムニバス形式で行います。私の場合は社会学の授業でした。授業はすべて英語で、その後のグループディスカッションも、3カ国の学生が入り混じって全部英語。最後にはどんなことを話し合ったかをプレゼンし、その後に評価もする。それで2単位を取れるというプログラムでした。これは、長期休みの間にお互いを訪問し合うプログラムだったのですが、佐賀大学の院生は全員、韓国と中国と台湾に行きました。
■ プログラムに参加された学生の成長ぶりはいかがでしたか?
学生たちは飛躍的に成長しましたね。本当に全然しゃべれない学生もいましたが、一緒に夕食を食べて、お酒を飲んでいるうちに話し始めるのです。できる・できないは別にして、コミュニケーションを取ろうとしているのがわかって、すごくよかったですね。メールのやりとりでも、英語ができない中国人相手に漢字だけで書いていたり、韓国人相手に(ハングルは読めないので)英語で書いていたり。その中で国際カップルもできました。このプログラムを経験した学生たちは、私がそうだったように「今度は韓国に行きましょう」などと気軽に言うようになりました。
■ 先生の英語の指導方法についてお聞かせください。
学生にはできるだけ「機会」を与えるようにしています。カジュアルな国際会議に連れて行ったり、アブストラクトだけでも投稿させたり。私は英語の添削はいまだに苦手ですので最終的には、外国人共同研究者に見てもらいます。災害研究は外国でも進められており、ここ10年ほどで外国の研究者方との共同研究が増えました。そのおかげで、添削をお願いできる人脈も増えました。
おかげさまで、私のところで学んだ院生の多くが教員になっています。韓国で教員やポスドクになった学生もいれば、中国に帰国して教員になった院生もいます。
■ 卒業された皆さんは、韓国や中国でも英語を使われているのですか?
韓国でも中国でも、英語で学会の運営をすることが多くなっています。このよいところは、(英語)ネイティブではないことです。ESL(English as a second language)状態なので、若い人たちも気後れしないでしゃべるようになっています。英語が母国語でない人たちとの会話のほうが精神的に楽ですよね。若い人たちにとっては英語圏に行くのが一番かもしれませんが、英語を気軽に自分たちのものにするためには、アジアでもよいのではないかと思います。英語が通じない地域もありますが、Ph.Dを持っている台湾の人たちの9割はアメリカで学位を取得しているといいますし、国外でのPh.D.取得が韓国や中国でも多くなっています。私が台湾に2度ほど3か月と半年間、客員教授として迎えられましたが、英語だけで通じるので、まったく中国語ができない状態で行って、できないまま帰ってきました(笑)。
■ 先生が考える英語上達の秘訣、またはおすすめの勉強法を教えてください。
まだまだ勉強中の私が申し上げるのも難なのですが、とにかく触れる、使うことではないでしょうか。私の場合、共同研究で話したり、書いたりしながら実地で覚えたという感覚が強いです。仕方なく英語を使う状況に自分を追い込むんです。そうすると、向き合わざるを得ませんから。
あとは人の論文をレビューすることが、書くための勉強になります。文献を探して読むこと。あとは、自分で書くこと。私はパソコンでやっても身につかなくて、ノートに書いています。本当に必要なものは、書かないと入ってこないですから。スペルも覚えます。自分で書いて自分でチェックしていると、書くのが早くなります。年齢と共に筆記スピードだけでなく語学力も衰えていくと言われますが、筆記のスピードでそれをセルフチェックできるんです。
■ 自分で文献を探してレビューを読み、そして書くことが英語上達に結びつくということですね。
ええ。レビューを読むことは研究費などの調達にも必要です。資金を申請するには、必ず内外の研究動向を書かなければなりません。申請書を日本語で書くにしても内外の動向、特に外の動向を探るために外国の文献を読む必要がありますし、外国資金の申請をする時には、日本語の文献でもそれを読んで内容を書かなきゃなりません。
佐賀大学にいるころは、外部資金の獲得件数が多かったので「外部資金の女王」とか呼ばれていたんです(笑)。外部資金だけで35-36件でしょうか。申請書の書き方の本も書きましたし。
■ 研究費を確保するための申請書の書き方指南は、後身の指導にもなりますね。
実は、こつこつ集中して同じ作業をしたり研究をしたりするのは好きですけど、教えるのは苦手だと思っています。にもかかわらず指導のお声がけをいただき、本当にありがたく思っています。先日は申請書の作り方の指導に呼ばれて、沖縄の大学で8名の先生の申請書を朝9時から夕方5時まで休みなく、一人1時間ずつ。明日は佐賀に出張で大型資金の申請についての打ち合わせですし。結局、お世話するのが好きなんです。もう疲れて自分の申請書ができないかもしれません(笑)。