研究コラム「レンバチニブ先行後の選択的TACEによるシナジー効果」

TACE療法の基礎について説明する工藤正俊教授

肝臓は動脈と門脈とから栄養を得ているが、癌細胞は動脈のみから栄養補給される。この違いを利用して、動脈に挿入したカテーテルから抗癌剤を注入し、また特殊なスポンジで動脈を塞ぐことにより、癌細胞のみを壊死させる治療法が肝動脈化学塞栓療法(TACE)である。

しかし進行した癌では血管の太さがまちまちで、薬剤が均一にいきわたらず、十分な塞栓効果も得られない。また、塞栓箇所が多くなれば、正常な細胞も一部死滅してしまうので、肝予備能が低下する。さらに、血管の塞栓により生じる低酸素状態はVEGFとよばれる血管新生因子の発生を促す。肝細胞癌は腫瘍血管網が発達してできているため、血管の新生は残存腫瘍の増大をもたらしてしまう。

分子標的薬レンバチニブとTACEのシナジー効果について説明する工藤正俊教授

TACEの効果を最大限に発揮させるためには、なるべく腫瘍量を少なくし、その限られた腫瘍のみを選択的に塞栓することが肝心だ。レンバチニブの高い腫瘍抑制効果、腫瘍血管正常化効果、およびVEGF抑制効果に注目した工藤教授は、次のような仮説を立てた。すなわち、まずはレンバチニブを先に投与して(1)腫瘍量を減らし、ごく限られた領域にのみTACEを行う、(2)血管を正常化させ太さがそろった動脈にTACEを行うことにより、抗癌剤を癌細胞に効率的かつ均一にいきわたらせる。さらにTACEを行った後は(3)多少の低酸素状態がもたらされるものの、レンバチニブのVEGF抑制効果により血管新生が最小限に抑えられる。いわば、レンバチニブの先行投与により、様々な局面でTACEにシナジー(相乗)効果がもたらされ、その結果、肝予備能の維持、再発の抑制、ひいては生存の延長につながるというシナリオだ(図参照)。

図:レンバチニブ先行後の選択的TACEによるシナジー効果

過去の知見と最新の成果が結実したこの仮説に基づき、レンバチニブ投与をTACEより先に行うという大胆な発想が生まれた。そして見事その仮説の通り、レンバチニブ先行投与+TACE療法は、全生存期間を2倍に延ばすという画期的な成果をもたらしたのである。

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工藤正俊教授へのインタビュー・前編では、肝臓癌治療法の発展の経緯や、世界初となった治療ガイドライン作成の背景についてお話いただいています。

工藤正俊教授へのインタビュー・後編では臨床試験を成功させる秘訣や論文執筆についてお話を伺います。

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