分子は原子が結合してできている。原子同士を結合する「のり」には種類があり、共有結合、金属結合、イオン結合などといった用語を聞いたことがある方も多いだろう。配位結合もその1つで、見た目は共有結合と似ている。共有結合では、2つの原子がお互いに電子という「手」を出し合い、いわば双方が握手する形で「のり」が形成される。一方、配位結合では片方の原子のみが手を伸ばし、「のり」の部分に電子を供与する。
PCPの「のり」には配位結合が使われている。手を差し伸べるのは有機配位子、その手の受け取り側は金属イオンだ。金属イオンからは複数の受け取り手が決まった方向に伸びている。例えば、2本なら直線、4本なら正方形または正四面体、6本なら正八面体の頂点に向かう方向といった具合だ。有機配位子の方も1点を中心にして2方向、3方向、さらには4方向に向かって直線が伸びた形をしている。両者が結合してネットワークを作れば、ジャングルジム型(四角格子構造)やハチの巣型(ハニカム構造)など様々な形の孔をデザインすることが可能となる(図参照)。
特定の分子がぴったりはまるサイズの孔からなるPCPをデザインすれば、よりコンパクトに分子を吸着できるため、従来のように大きいボンベを使わずとも、手のひらサイズのチップに気体分子を貯蔵して持ち運ぶことができる。また、特定の分子を引き寄せる金属を用いてPCPをデザインすれば、サイズや性質が似たような分子が混在する気体から、目的の分子を効率よく分離することができる。さらに、反応性が高い金属を用いれば、吸着した分子に対して触媒として作用させることも可能だ。これらの機能を組み合わせてPCPを設計することにより、より少ないエネルギーで効率よく様々な分子を合成する、いわば「気体の錬金術」が実現すると期待されている。
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北川進博士へのインタビュー・前編では、PCP開発の経緯や、レビュー論文執筆の重要性についてお話いただいています。
北川進博士へのインタビュー・後編では、若手研究者へのメッセージや論文執筆、共同研究について伺います。