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論文の多くは「再現」に必要な情報がない!?

第三者が論文に書かれた研究を検証し、場合によっては追試( 再現実験 )を行なうためには、詳しい実験手順(プロトコル)が必要です。また、グラフなどの図表を検証するためには、そのもとになった「生データ(オリジナルデータ)」も必要です。エモニー大学のシャリーン・イクバルらは、研究報告を適切に評価したり再現したりするために必要な情報が公開されているかどうかを調べるために、2000年から2014年に公表された生物医学分野の論文441本を分析しました。
2016年1月4日付のオープンアクセス・ジャーナル『プロス・バイオロジー』で発表されたその結果は残念なものでした。ケーススタディ(症例報告)などを除外して、具体的なデータを含む論文268本のうち、完全なプロトコルを示していた論文はわずか1本しかありませんでした。著者たちはその論文について

実際のところ、この論文自体がある臨床試験のプロトコルであり、オープンアクセス・ジャーナルの『臨床試験(Trials)』に掲載されたものである。

と、皮肉まじりに書いています。また、図表などのもとになった生データすべてを第三者が参照できるようにされていた論文は1本もありませんでした。さらに、論文441本のうち、約半分には、研究にかかった資金の出所が書かれていませんでした。約7割には、企業など資金提供者との利害関係を意味する「利益相反」について何も書かれていませんでした。
『プロス・バイオロジー』の同じ号では、ドイツの研究者らががんや卒中にかかわる論文を調べたところ、その大部分が実験に使われた動物の数を示していないことを明らかにしました。同誌を発行するプロス社のプレスリリース*1は、

人間の医療において、患者の数、つまり研究の過程で何人がドロップアウトしたり亡くなったりしたのかという情報がないまま臨床試験の結果を公表することは考えにくいだろう。

と、動物実験においても基本的なデータを正確に示すことの重要性を指摘しています。
日本でも、論文そのものだけでなく、そのもとになった生データも公表すべきだ、という議論が高まっており、文部科学省などで検討されています。一方で、研究者が学会に加入したり学術誌を購読したりする必要がなくなってしまう可能性もあるわけですが、その影響も深く議論されるべきでしょう。

*1: https://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160104163155.htm


ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

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