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研究における「再現実験」の結果を公表するジャーナル登場

これまで、重要な研究論文が出た後に個々の研究者が再現実験を行ない同じ結果が出なかったとしても、その事実はなかなか共有されませんでした。その結果、多くの研究室が決して良質ではない研究のために再現実験を行なうこととなり、時間や労力、費用、資源が無駄に費やされてきました。

再現性という問題はとりわけ生物医学分野でしばしば指摘されてきましたが、最近には新たな試みも見られています。
2016年2月4日、オンラインのオープンアクセス・ジャーナル専門の出版社「F1000Research」は、再現実験の結果を公表することに特化したジャーナル「前臨床における再現性・頑健性チャンネル(Preclinical Reproducibility and Robustness channel)」を創設しました。編集委員には、著名な生化学者でカリフォルニア大学のブルース・アルバーツ氏教授と、バイオテクノロジー企業アムジェンのアレキサンダー・カンプ上席副社長が就任しています。
同誌はその意義を

この『チャンネル』は、学術界と産業界を問わず科学者すべてに開かれており、研究者たちがオープンな対話を始められる集中型スペースを提供することで、再現実験を向上させることを手助けします。

ウェブサイト上で説明しています。
すでに4年前、アムジェンは警告を出していたといいます。2012年、当時アムジェンにいた研究者らは、『ネイチャー』への寄稿で、「画期的な」がん生物学の研究論文53本を選び再現実験を行なってみたところ、わずか6本しか論文通りの結果を再現できなかったことを報告しました。「前臨床研究の限界を承知しているとはいえ、これはショックな結果だった」とその研究者はまとめています。また、その結果は、その数年前に製薬企業バイエルが報告していた同様の分析を追認するものだったといいます。


しかしながら、『サイエンス』誌のブログ『サイエンス・インサイダー』によれば、「アムジェンの報告は批判された」といいます。

というのは、同社はデータを何も公表しなかったし、どの研究を調査したのかさえ明らかにしなかったからだ。(元アムジェンの科学者C・グレン・バグレーは、その理由の1つはもとの論文の著者たちの一部との秘密保持協定だという。)

今回創設された『前臨床における再現性・頑健性チャンネル』では、再現実験の方法もデータも公表することになっています。
創設と同時に公表されたのは、アムジェンの研究者たちが実施したのですが、失敗に終わった再現実験の結果3本です。第一に、マウスの実験で抗がん剤「ベキサロテン」がアルツハイマー病を改善させることを示唆した2012年の論文(Link)。第二に、「Usp14」という酵素をブロックすると、細胞がアルツハイマーやALS(筋萎縮性側索硬化症)にかかわる毒性タンパク質を分解するのを手助けすることを発見した2010年の論文(Link2)。第三に、「Gpr21」というタンパク質の遺伝子を持たないマウスを調べることによって、Gpr21が体重や糖の代謝に影響することを発見した2012年の論文(2本)です(Link3)。いずれも「研究ノート(research note)」という名目で公表されています。
このジャーナルでは、まず再現実験を行なった研究者たちの原稿をそのまま掲載します。その後、査読者を募集します。査読者の名前も公表されるようです。掲載料は長さに応じて150〜1000ドル。査読を受けて採択されたら、その「研究ノート」は、生物医学の論文データベース「パブメド(Pubmed)」に収載されることになります(2月5日現在、3本の研究ノートはすべて、「査読待ち」の状態です)。
なお同様の試みとしては、非営利団体「オープン科学センター」の主導で、有名ながんの研究実験50本を再現するというプロジェクトなどが知られています。
こうした試みによって、少しでも無駄が減り、科学と医療の進展につながることが期待されます。


ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

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5 years ago

[…] ほとんどの基礎研究・前臨床研究には再現性がない、と言われています。しかし、再現性のない研究でも文献としては残り続けるため、その結果を再現しようと他の研究者が時間と研究資源を無駄にしてしまいます。この無駄を防ぐため、否定的な研究結果の出版が必要とされています。否定的なデータが出版されることにより、無駄な実験に費やす時間を減らすことができるほか、不適切な手法のために再現できなかった事例の報告としても役立ちます。このような要望に対して、以前に学術英語エナゴアカデミーの記事でも取り上げた、オープンアクセスジャーナルのF1000Researchは否定的な研究結果も積極的に掲載する取り組みを行っています。こういった試みに対し、おおよその研究者は好意的に受け止めているものの、出版はまだ進んでおらず、効果が出てくるのはこれからと考えられています。 専門家たちの意見を伺ってみましょう。 […]

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