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第2回 色覚の多様性―あなたは何型?

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすいスライドを作るために覚えておきたい「カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズです。


「色」とは、物体に反射または透過した光が眼に入り、網膜、視神経を経て脳で感知されるものです。進化の過程で色覚に関与する遺伝子に多型が生じたため、色の見え方には個人差があり、血液型のように分類することができます。

    1. 色覚の仕組み

図2-1 視細胞の種類(CUDOおよびハート出版より許可を得て転載)

 

光源から物体に当たって反射した光は、ヒトの眼に入ると角膜、瞳孔、水晶体を通り、網膜の一番奥の層にある視細胞に到達します。視細胞には明暗を感じる約1億個の杆体と、色を感じる約700万個の錐体があります。錐体には、ヒトの可視光の波長約400〜700 nmのうち、より短波長側の青を強く感じるS(short)錐体、中波長の緑を強く感じるM(middle)錐体、少し長波長側の赤を強く感じるL(long)錐体の3種類があります(図2-1)。

 

    1. 色覚の多様性―C型、P型、D型、T型、A型

・C型(Common:一般型)はL、M、Sの3種類の錐体を持つ色覚グループで、緑〜赤の色相差に敏感です。日本人男性の95%、女性の99%以上がこれに含まれます。このグループは多数派であることから、一般型あるいはC型色覚者と呼ぶことが提唱されています(表2-1, 図2-2)。一方、C型以外の色覚タイプを持つ人は、色の配慮が不十分な社会における弱者という意味で「色弱者」と呼ばれることがあり、それらの少数派の色覚特性を以下に紹介します(表2-1, 図2-2)。
・P型(Protanope:1型)はL錐体がない(P型強度)、またはL錐体の分光感度がずれてM錐体に近くなった(P型弱度)色覚グループで、赤を暗く感じ、赤〜緑の区別がつきにくい特性があります。男性の1.5%を占めます。
・D型(Deuteranope:2型)はM錐体がない(D型強度)、またはM錐体の分光感度がずれてL錐体に近くなった(D型弱度)色覚グループで、P型と同様に赤〜緑の区別がつきにくい特性があります。男性の3.5%を占めます。
・T型(Tritanope:3型)はS錐体がない色覚グループです。先天性のT型の人はほとんど存在しません。
・A型(Acromatic:無色型)は錐体が1種類しかない、または全くなく杆体しか持たず、色を明暗でしか感じることができない色覚グループで、T型と同様に頻度は非常に低いです。

表2-1 色覚のタイプと呼称(CUDOより許可を得て転載)

 

    1. 日本人男性の20人に1人がP型またはD型

図2-2 分光感度特性と色覚の種類(CUDOおよびハート出版より許可を得て転載)

 

色弱者はほとんどがP型またはD型で、これらが日本人男性の約5%(20人に1人)、女性の0.2%(500人に1人)を占めます。欧米では日本より多く男性の8〜10%(10〜12人に1人)を占め、アフリカでは日本より少なく2%程度です。男性に多い理由は、これらの色覚タイプに関与する遺伝子がX染色体上に存在するためです。男性はX染色体数が1本ですので、P型、D型の遺伝子を持てばそれらの色覚タイプとなります。女性はX染色体数が2本ですので、どちらかにこれらの遺伝子を持っていても保因者となり、実際の色覚型はC型となります。保因者は女性の約10%に存在します。
血液型におけるAB型の頻度(日本人の10%、米国人の3%)と比べると、P型・D型色弱者の頻度がいかに多いかがわかります。人数で言えば日本に320万人以上、世界に2億人以上の色弱者が存在することになります。


参考資料:
カラーユニバーサルデザイン機構(2009)『カラーユニバーサルデザイン』ハート出版
伊藤啓(2012)カラーユニバーサルデザイン 色覚バリアフリーを目指して. 情報管理 55(5)307-317
カラーユニバーサルデザイン機構ウェブサイト(2015)色覚について・しくみ.
岡部正隆、伊藤啓(2002)色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション 第1回 色覚の原理と色盲のメカニズム. 細胞工学21(7)733-745

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